平成19年9月7日(金)18時〜19時 NHK FMラジオ
「まるごと千葉60分−今日のこの人」
北林きく子(NHKキャスター):9月12日は宇宙の日、そして、翌13日には待望の日本の月周回衛星「かぐや」が打ち上げられるということで、今日は宇宙関連で「宇宙切手の世界」を覗いてみたいと思います。ところで「宇宙切手」というのは、コレクターの間では「宇宙開発切手」とも呼ばれ、ロケットや人工衛星、宇宙飛行士、そのほか天体や地上通信局なども含めて、「宇宙」に関するあらゆる図案の切手を指しています。それらは、世界中のさまざまな国で発行されています。中には、自国では宇宙開発を行っていない小さな国でも盛んに発行されているということです。
大きさにすればわずか2〜3cm四方の切手、その1枚1枚に、発行者や発行国のさまざまな思いが込められているようです。その意味を読み解くことができるのが、今日ご紹介する切手収集家の辻野照久さん、57歳。柏市にお住まいで、趣味の切手収集歴が45年、中でも宇宙切手の分野を得意とされています。一方、普段は宇宙航空研究開発機構JAXAの国際部参事として、宇宙開発に関するお仕事に携わっていらっしゃいます。
切手の知識と仕事上の宇宙に関する専門知識を併せ持つ辻野さんだからこそ、「宇宙切手」の深い世界がわかる、というわけです。
辻野さんは、多くの人に宇宙切手を知ってもらいたいと、ご自身でHPを持っていらっしゃいます。検索エンジンで「宇宙切手」と入力すると表示されます。可能な方は、そちらのHPもご参照下さい。
さて、先週の土曜日、柏市の辻野さんの自宅におじゃましまして、自慢の切手コレクションを見せていただきました。通されたのは、切手専用の5畳ほどのお部屋、名づけて「切手室」。
(切手室の書棚とアルバム)
この部屋に置かれた書棚の中にある切手の数、なんと23万種類、その中にたくさんの「宇宙切手」が含まれていました。集められた切手すべては、辻野さんのシステム化された整理法によって、美しく250冊の切手専用のアルバムに入れられていました。目的の切手を探してくださる辻野さんの動きはまるでダンスを踊るようにしなやかで、さらに1枚の切手を元に語られる内容は、宇宙に関すること、発行国の事情、切手を手に入れたときの思い出など、面白い上に、終わりもありませんでした。
では、そのときの様子を、どうぞお聞き下さい。
(インタビューその1)
北林:おじゃまいたします。
辻野:いらっしゃい。
北林:失礼致します。わあ、ここ、お勉強部屋? 書斎?
辻野:書斎というものですね、男の夢です。
北林:ここは、何か、お部屋のタイトルはあるんですか?
辻野:「切手室」です。
北林:切手室!?
辻野:この書棚は2.3mの横幅があって、部屋にギリギリ入ってるんですよ。
北林:本当ですね、この中に・・・。
辻野:今、アルバムが250冊以上、で、世界193カ国と国連やいろいろな島などの地域ですね、そういうのがみんな入っています。どれでも1分以内くらいで取り出せます。
北林:ええ!?
辻野:だいたい1冊に1000枚くらいずつ切手が入っています。
北林:これが全部切手?
辻野:全部切手です。
北林:一つにしたら小さな切手ですけれども。
辻野:枚数が23万というと、これくらいの大きさが必要です。
北林:これをどのくらいの年月で収集されたのですか?
辻野:一番最初が昭和37年1月に、たった1枚(注:富士箱根伊豆国立公園の5円切手1種)、タバコ屋さんで記念切手を買ったのが始まりなんですよ。
北林:えーっ?
辻野:小学校5年生のときです。
北林:わー、だいぶ歳月が経っていますね。
辻野:そうですね、もう45年になりますね。
北林:収集歴45年?
辻野:途中止めていたときもありますけれども、45年間集め続けている感じですね。
北林:人生を賭けていらっしゃいますね。
辻野:それではご覧になりますか?最初に中国の切手です。(書棚の扉を開ける音)
北林:すごくスムーズに出てきますね。
辻野:このアルバムですね、(中国の)1986年からのです。
北林:どこにどんな切手が入っているかすぐわかるんですね?
辻野:そうですね、国と年代で大体わかりますね。これが中国の宇宙切手なんです。まず4分(フェン)というのがあって、丸い人工衛星ですが、東方紅1号といって、中国の最初の人工衛星の絵なんです。
(東方紅1号)
毛沢東を讃える歌を流したという話なんですね。今度、月周回衛星で中国も「チャンウ(Chang’E)」という衛星を中国が打ち上げるんですけれども、月に行く間音楽を流すらしいですよ。30曲も選曲したと言ってます。
北林:衛星から流す?
辻野:衛星から地球に向けて流すということで、月に着くまで、FM放送らしく、普通のFMラジオで聞けると言ってました。
北林:細かい情報まで、1枚の切手から出てきますね。(注:中国が10月に打ち上げるという月周回衛星の情報が切手で得られるわけではありません)
辻野:次のパラシュートが描いてある切手、最初、宇宙切手だと思わなかったんですけど、回収衛星って書いてあるんですね。中国では、回収式衛星っていうのが、すごい歴史があって、今でもやっているんですけれども、この頃は偵察衛星で、写真を撮りに行ったんですね。カメラなんですよ。銀塩フィルムに写してくるんですね。そうすると、宇宙から帰ってこないとその写真がみられないんですよ。それで、地上に戻した時にヘリコプターが捜索に来ている絵なんです。
(回収式衛星)
北林:あ、切手の中にうっすらとヘリコプターが・・・。
辻野:次はロケットの打上げですね。
(長征3号の打上げ)
あとアンテナの絵がありますね。衛星と通信をするアンテナです。海と船が見えているので、指令船という、今度の月周回衛星の打上げでも使いますけれども、船に追跡の設備が積まれているんです。船にアンテナがついていて、それで追いかけます。
(追跡指令船のアンテナ)
北林:あ、これ何でもなく海が描かれていたり船が見えていたりではないんですね。
辻野:もう一つ、70分といって一番高い額面なんですけれども、これは世界的に見ても珍しい図案なんです。
(静止衛星の軌道投入)
というのは、静止衛星を静止軌道にどう投入するのか、という途中経過が描いてあるんですよね、実は、地球は太陽の周りを回っているんで、すごい速度(注:約11万km/時、衛星は対地球2.7万km/時)で飛んでいるんですよ。それにからみつくように、衛星は回っている(実は常に地球の進行方向に飛んでいて、逆行することはない)んですね、そういうことがこれを見るとわかるんですね。
北林:あ、これは宇宙の中に、地球と?
辻野:地球と衛星ですね、静止軌道に入れた、ということなんです。
北林:あ、その軌道の向きも矢印で?
辻野:はい、衛星が時計と反対周り(北半球を上にして見たとき)に地球を回っているということまで描かれているんです。日本ではこういう切手はないんで、子供たちが勉強できないんですよ、切手だと覚えちゃうんです。だから中国が今すごく宇宙(技術)が発展しているというのは、小さい頃からこんな切手を見て育っているんですよね。
北林:そうですか、切手から学ぶことは多いんですね?
辻野:ちなみにね、この切手は86年の2月発行なんですけれども、その頃、私は宇宙の仕事じゃなかったんです。その年に転職したんです。だからこの切手はすごく参考になりました。
北林:えっ!転職に参考になった?
辻野:ええ、宇宙開発事業団(旧NASDA)に入るにあたって、宇宙って何をするところなんだろうな、と宇宙切手を見ると、ああなるほどこんな仕事もあるのかと。打上げとか衛星とか、衛星を追いかける地上ステーションがあるんだなあとかね。
北林:ああ、それまでに収集していた宇宙切手を見て?
辻野:切手を見て転職を決めました。
北林:ずいぶんと、切手が役に立っているんですね?
辻野:そうです。その決断のときにはすごく役に立ったと思います。私は、切手に背中を押されて入ったと言ってます。
北林:それで今、JAXAに。
辻野:じゃ、中国はこんなところで。
(インタビューその1終わり)
北林:最初に見せていただいた、中国発行の宇宙切手、一部余っているからと、辻野さんがプレゼントして下さいました。今、手元にあるのですが、6枚組みになっていまして、印刷は水彩画のようですね。1枚1枚に意味が込められていて、辻野さんの説明にもあったように、中国の宇宙開発に対する強い意欲を感じます。
それにしても、現在の勤務先JAXAに就職するときに決断をさせてくれたのがこの宇宙切手だったとは、驚きでした。
さらに面白い切手をご紹介いただきました。続いては、「旧ソ連」の切手で、旧ソ連の意外な一面が見えました。
(インタビューその2)
辻野:次は昔のソ連ですね。ソ連は鉄のカーテンといって、情報を出さない国だったと思われていますが、切手だけはすごく正確なんですよ。(注:有人宇宙飛行と惑星探査に限っての話です。軍事衛星はもちろん秘密です。) 今からみても、本当にその当時はありのまま出していたんだな、ということがわかるんですね。それではソ連の切手を出してみましょうか。この辺がソ連の宇宙切手の一番初期の頃ですね。(アルバムを開く音) 宇宙切手がどんどん出てきます。初の有人宇宙飛行、1961年8月・・・。
北林:わっ、古い!
(ガガーリン)
辻野:はい、これはガガーリンですね。あと有名なのはテレシコアとかいるでしょ?初めての女性の宇宙飛行士、これらも全部切手になっているんです。
(テレシコワ)
というのは、この頃の宇宙飛行士は全員切手にしてたんですね。中にはね、宇宙船が失敗して亡くなった人もいるんですよ。そういう人も追悼切手ということで、切手を出しているんです。ですから、ソ連は決して隠していたわけではなくて、どんどん宣伝していたようなところがありますね。
北林:これ国外にも出ていたんですか?
辻野:切手というのは、万国郵便連合に加盟している国はお互いに交換することになっているんで、情報を出すためにやっているといってもいいくらいで、自分の国はこんなすごいことをやったんだぞ、ということ、それは誇張ではなくて、やったことを出しているというのはすごかったと思うんですよ、嘘偽りはなかったということで。
北林:それは一般社会の中では、かなり秘密事項だったことを?
辻野:そうですね、技術的にわからないといわれていたことを、切手ではちゃんと正しい絵を描いているんです。すごく面白いです。
北林:へえ、なんでしょうね、ソ連にとって切手って何だったんでしょうね。
辻野:共産圏という仲間の国がありますね。そういうところに少しでも、自分たちの力がこれだけあるんだということを示したい、国威発揚といいますけれども、それを切手でやっていたんじゃないかなと思います。
北林:ほう?切手で。切手を見ると秘密の情報もわかるんですね?
辻野:はい。
(インタビューその2終わり)
北林:さて、「宇宙切手」は、宇宙開発を行っていない小さな国ほど多く発行している場合が多いということです。それは、切手収益が国の財政を大きく潤すからなのだそうですが、続いて、そのような、実際の打上げ国とは違う国が切手を発行しているケースについて教えて下さいました。
(インタビューその3)
辻野:じゃあね、本当は気に入らない面もあるんですけれども、営利主義、金儲け主義で切手を発行している国がたくさんあるんですよね。
北林:へえ、そういう国もあるんですか。
辻野:輸出額の99%が切手の売り上げだという国もあるんです。そういう国のも一応集めていますので、「ガイアナ(Guyana)」という国の切手をお見せしましょう。
北林:どこにあるんですか?
辻野:ガイアナっていうのは、南米大陸のブラジルの北にあるんです。
北林:国ですか?
辻野:国です。昔は「(英領)ギアナ(British Guiana)」って言ってました。その隣にはフランスがあるんです。フランスと国境を接しているんです。
北林:ええ?
辻野:フランスは、ヨーロッパに本土があるんですけれども、海外県といって、日本でいうと沖縄県みたいな感じで、それが南米大陸にあるんです。そこで欧州のロケットの打上げをしているんです。その隣にある国がガイアナですね。こちらは昔、「イギリス領ギアナ」といいましてね、これがガイアナの切手なんです。
北林:うわあ、宇宙、きれいな。
辻野:宇宙のきれいな切手を出しているでしょう?何百円かなら買いたくなるでしょう?それほど高くないんで。これなどは面白いんですが、説明が間違っているんですよ。これちょっと見てください。
(SOHOと太陽)
太陽が描かれていますよね。これに、Man on the Moon(Apollo 11)と書いてあるんですよ。
北林:どういう意味ですか。
辻野:これじゃわからないですよね。「人類月に立つ」という意味なんです。それが太陽のところに書いてあるんですよ。それから、ここに月が描いてあって、アポロ宇宙船のところに「太陽の調査」って書いてあるんです。つまり、この二つの説明が入れ替わっているということなんですね。
(アポロ宇宙船と月)
北林:ああ。
辻野:これは「エラー切手」なんです。図案が間違っているということです。
北林:あ、エラー切手っていうんですか?
辻野:図案が間違っている切手ですね。
北林:はあ、これは何ですかね、確認しなかったとか、わかっていなかったとか?
辻野:うーん、まあ、手違いで間違っちゃったんでしょうね。ガイアナは営利主義ですから、売れる切手だったら何でも作るっていうんで、国の収入源にしているんですね。で、私はあまり買いたくないんですけれども、宇宙切手の場合は、そういうところが商売上手で、大国だと見向きもされないような小さな衛星でもこういう風に写真を探してきて切手にしちゃうんですね。
北林:マニアックなところをついてくる。
辻野:そう。専門家は、衛星の保有国で出していない切手なら他の国のでも欲しい、ということになるんですね。
北林:あー、そうなんですか。
辻野:もう一つそういう例を見せましょうかね。ガーナという国があるんですけれどもね。アフリカにある国です。この国では、どういう訳か、アポロの25周年記念で、アポロと全然関係ない、毛利衛さんとか向井千秋さんとか。
北林:わあー。
辻野:こういう切手を出しています。
(毛利衛宇宙飛行士) (向井千秋宇宙飛行士)
北林:ええー、その真意はなんでしょうか?
辻野:ドイツの宇宙飛行士とか、もう売れれば何でもいいということだろうと思います。宇宙切手の展示室で、向井さんと毛利さんの切手をぜひ紹介したいということで、高いけど、買っちゃいました。
北林:HPの展示用でね。
辻野:これはH−Iロケットで、昔の日本のロケットですけど、ガーナから出てるんです。日本ではこの種類は出ていないんで、HPではH−Iロケットの紹介はこれにしています。
(H−Iロケットの打上げ)
北林:あ、そうですか、日本で出してないのに。見ず知らずのガーナで。
辻野:そうですね、なぜガーナが出したのかわかりませんけれどもね。
(インタビューその3終わり)
北林:「エラー切手」、時には間違えた情報のまま切手が出回ることもあるんですね。ところで、フランスの(注:小型衛星の間違い)の宇宙切手が南米のガイアナで多く発行されているそうですが、日本の宇宙開発切手は、ハワイの南方にある「キリバス(Kiribati)」という小国から出ているそうです。それは、キリバス共和国のクリスマス島に、JAXAの静止衛星打上げ時の追跡局があり、その関係から、日本でも発行されていないような切手がキリバスから出されているそうです。
(N-Iロケットの打上げ) (静止衛星の飛行経路) (クリスマス島の追跡局)
(交通情報を挟んで後半は生出演でした)
北林:今日は、知られざる「宇宙切手」の世界について、JAXA国際部参事で切手収集家の辻野照久さんのお話をご紹介しています。前半は、辻野さんのご自宅にある「切手室」で宇宙切手を見せていただいたときのお話をご紹介しました。
その辻野さんですが、実は今、柏市のご自宅にいらっしゃいます。
今日はこの後自宅でご用がおありとのことで、千葉市のこちら千葉放送局まではお越しいただけなかったのですが、後半は、自宅にいらっしゃる辻野さんと電話で繋いでお話を伺いたいと思います。
北林:辻野さん、こんばんは。
辻野:こんばんは。
北林:よろしくお願いします。辻野さん、先日は切手室を案内していただき、ありがとうございました。土曜日(注:9月1日)は日が暮れてしまったので、すべての切手を見せていただくことはできませんでしたが、時間があればまだまだお話が続きそうでしたね?切手収集で、どんなところが楽しいですか?
辻野:持っていない切手を長らく待って手に入れて、アルバムに収める瞬間ですね。
北林:切手にも宇宙にも精通しているということで、辻野さんのアイデアによる切手が出たこともあったとか?
辻野:1992年は国際宇宙年で、世界中から宇宙切手が発行され、日本でも発行するということで、郵政省からお手伝いの依頼があって、世界の切手をお見せして、2枚連刷で人工衛星などを4種類描くという提案をしたところ、本当にそのような図案になったのでびっくりしましたが、私にとっては一生の思い出という切手になりました。
北林:切手収集歴45年という辻野さんの人生の節目には、いつも切手が影響してきたとか、切手に導かれたというのは本当ですか?どのように?
辻野:そうですね。宇宙の仕事に転職しようかどうかというときに、切手がなかったら判断に迷ったと思います。
北林:切手はすごいですね。
辻野:はい。
北林:辻野さんは転職前に旧国鉄におられたそうですが、その就職も切手が助けてくれたのですか。
辻野:就職のときというより、もっと以前に、切手を集め始めた頃に東海道電化完成の切手を見て。電気機関車が素晴らしくて、ぜひ鉄道に就職しようと思ったのです。まだ10歳そこそこです。それくらい切手には影響力があると思います。
(昭和31年の東海道電化完成記念)
北林:宇宙関係も詳しいけど鉄道の切手も詳しい?
辻野:この前はお見せできなかったけど、鉄道切手も宇宙切手と同じようにたくさんあります。
北林:それでも一押しなのは宇宙切手ですか。
辻野:そうですね。(注:鉄道切手と実物の鉄道の知識は結び付けやすいと思いますが、宇宙は技術的にも複雑で、わかりにくいところがあります。)
北林:宇宙切手をHPで公開されていますね。
辻野:自分なりに宇宙開発の情報を整理したいと思って始めました。職場でも使っています。アクセスログを見ると、いろいろな方が見られていて、少しでも多くの人に宇宙に関心をもってもらえることが大事だと考えています。
北林:「宇宙切手」で検索すると宇宙切手の展示室が出てくるのですね。
辻野:展示室といっても3次元空間の迷路のようになっていますが、いろいろな角度から見ていただけると思います。
北林:今日お話があった切手は全部出てきますか?
辻野:全部出てきます。
北林:切手に詳しくなるために、それぞれの国の言葉も勉強されたのですよね。
辻野:そうですね。一番熱心にやったのはロシア語で、つづりを読んで辞書を引けば切手に何が書いてあるかわかるように勉強したのですが、今の仕事にも役立っています。世界の国の名前、場所や歴史をたくさん覚えたのですが、JAXAで世界の宇宙開発動向を調査する上で、人工衛星の数が6000個近く、打上げ国も50カ国近くにどんどん増えてきていて、あまり知られていない国もあって、結構役に立っています。
北林:辻野さんの頭の中にある地球儀はかなり細かいのですね。
辻野:(地球儀の中に)切手が目印で入っているという感じです。
北林:切手の方が教えてくれることが多いですか?
辻野:宇宙に関しては、日々の世界中のニュースで情報を収集していて、切手では追いつかないですね。
北林:かつては教えられることが多かったということですね。
辻野:そうです。
北林:辻野さんにとって宇宙切手の魅力とは?
辻野:宇宙で人工衛星が飛んでいるところを実際に見た人はいないわけです。鉄道なら電車が走っているところを見ていて、それが切手になっているわけですが、宇宙の場合は切手特有の自由なデザインや高度な印刷技術で、まるで宇宙空間に自分がいるように見せてくれることが魅力だと思います。
北林:宇宙切手の面白いところは何ですか?
辻野:これからどんな新しい宇宙切手が出てくるか楽しみです。
北林:ちなみに、今後手に入れたい切手はありますか?
辻野:手に入れたいというか、日本で発行してほしいと思っているのは、9月13日に月周回衛星「かぐや」が打ち上げられますが、成功(注:「成功」とは、打上げだけでなく、約1年間の観測終了後にミッション成功と評価されれば、という意味です。)したら記念切手を発行してほしいと思っています。実は5年も前から言ってます。
北林:言い続けているから実現するかもしれませんね。
辻野:ハイビジョンカメラで見た地球とかね。そんな図案でもいいです。
北林:ぜひ見てみたいですね。日本発行で出てほしいですね。
辻野:はい、そうですね。
北林:貴重なお話をうかがいました。ありがとうございました。
北林:来週、日本の月周回衛星「かぐや」の打上げが成功したら、かぐやを図案にした切手が発行されるといいですね、ということでした。ちなみに、辻野さんの話にもありましたが、人工衛星「かぐや」には、月の誕生の秘密を探るなどのたくさんのミッションが課せられていますが、その中の一つに、衛星には、NHKのハイビジョンカメラ2台が搭載されることになっています。「月の地平線からの地球の出」、「日の出」ではなくて「地球の出」を撮影し、地球に伝送してくるそうです。世界中の人が月面からの視点を体験できるそうです。こちらも楽しみにしたいと思います。
「今日のこの人」、今日は「宇宙切手」の世界について、JAXA国際部参事で切手収集家の辻野照久さんにお話を伺いました。
以上
この放送の後、月周回衛星「かぐや」は、1日遅れで9月14日10時31分01秒に打ち上げられ、軌道投入に成功しました。最終的な月周回軌道への投入は30日後くらいです。
9月末に、「かぐや」から送られてきました。ハイビジョンカメラで被写体との距離がこれまでで最長となる11万キロということで、まだ途中経過です。やっぱり地球は青かったと思いました。
引用するときは必ずマルC JAXA/NHKを入れて下さい。
そしてついにハイビジョンカメラで「地球の出」や「地球の入り」が見事に撮像され、NHKで放映されました。